[Event Report No.4]
遠出の記録
記:鳥有先生
プロローグ
1.旅立つ莫迦者ども
2.東北自動車道を北上
3.仙台市の田舎者
4.国道六号の悪夢
5.いわき市の救済
6.そしてドラマは完結へ
エピローグ
●プロローグ
ことの始まりは学生時代からの友人KYからの電話である。
埼玉県は庄和町という、江戸川を挟んですぐ隣が千葉県だったりする関東平野のど真ん中とも言うべき場所に住んでいる彼から、電話がかかってきたのは八月は十五日の夜九時過ぎのことだった。
「よお、おつかれさま」
世間一般の会社が盆休みに入っている中、彼が日曜日までも返上して働き続けていたことを知っていた私は、自然とそんな言葉を掛けた。
「おつかれ。……明日、ヒマ?」
どうやら今頃になってやっと休みに入れたらしい彼は、ただ一つの要求事項の確認のみを求めてきた。
「ああ、ヒマだけど」
「よし、北行くぞ!」
後から聞いた話では、彼は予定通りに盆休みに入れなかったために、懸案していた喜多方ラーメン食い倒れ旅行をふいにしたらしかった。その怨念のこもったような言葉に、私はただ頷くしかない。
「じゃ、時間決まったら連絡するから」
誰かしらの道連れに声を掛けることも含めて、その夜の電話は終わった。
1.旅立つ莫迦者ども
翌朝、八月十六日午前九時頃。
「小山駅[i]、十一時集合ということで」
とりあえず行き先はまだ決めていないようで、とりあえず集まってからと迎えの場所を指定してきた。彼は自動車運転免許を持っていないのである。
私が車を出すのは既に決定事項になっているので、小山駅へ向かうことにする。私達の通っていた学校が栃木県の小山市だったので、卒業してからも、何かしらの集まりの時は小山駅に集まるのが定番になっていたためだ。KYも私も電車で通っていたわけだが、随分と遠い場所から通っていたものであると今更ながらに思う。
小山駅でKYを拾ってから、道連れにHKと落ち合う。HKも学生時代からの友人であり、現在は大学の研究室にいる。将来有望な人材である。彼が企業入りして出世することを願って、私とKYは常々投資を行っている(飲み会やら何だで支払いをもっているだけだが)。
さて、「北へ向かう」ことしか頭にない我々は、国道は新四号[ii]に車を走らせた。
「で、どこ行くんだ?」
KYの北のイメージがどこまであるのかが不明だったので、とりあえず国道にはのったものの、はっきりとした北の目的地へ向かうのならば、国道五十号[iii]にのって、佐野・藤岡インターから東北自動車道[iv]にのるべきなのである。
この時、KYのイメージは、目的地よりも飯のタネの方に向けられていた。
「宇都宮で餃子を食おう[v]」
時間が昼飯時でもあったので、新四号にのったまま宇都宮に向かう。
私の案内でまず行った餃子専門店「正嗣」は客が満杯で、車を停めるすきもなかったので、中華料理屋「煌[vi]」で、昼食をとることにする。KYはチャーシュー麺、HKは味噌チャーシュー麺に、それぞれ餃子を頼む。私は、チャーハン大盛りと焼き肉を頼んだ。
ここで安易にラーメンを選んだことが、後々我々の行動を大きく左右することになる。
[i] 栃木県小山市にあるJR東北本線の駅、どんな快速電車もこの駅からは各駅停車になる。東北新幹線の停車駅であったり、ホリデーパスの北限であったりもする。
[ii] 国道四号は、東京から青森を結ぶ、日本で一番長い幹線道路。新四号とは、旧四号が生活道路としての混雑にまみれ、幹線道路としての機能を満足しなくなったために造られた道路で、埼玉県越谷辺りから分岐して、栃木県高根沢町辺りで合流する。バイパスというにはあまりにも長いので、新四号なのである。
[iii] 茨城県水戸から、群馬県前橋を結ぶ幹線道路。今回のることはないと思っていたが、思いも寄らぬ形で再会する。
[iv] 有料高速道路。その働きは国道四号と同じ。金で時間を買うならば高速、道端を食うならば国道。
[v] 栃木県の県庁所在地。北関東最大都市として誇れることといえば、餃子食消費量が日本一ということぐらい。KYはそれを念頭に言い出したわけだが、地元の私からすれば、それは餃子がうまいという意味ではなく、日本で一番餃子を貪っているだけのことである。
[vi] 栃木県宇都宮市は栃木街道沿い、滝谷町交差点付近にある。初めて来店した際にクラブネッツのポイントキャッシュバックで五千円ふんだくって以来、週に一度はここで食べるようになった。
2.東北自動車道を北上
昼食を済ませ、鹿沼インターにほど近いところまできていた我々は、とりあえず、東北自動車道にのって北を目指すことにした。
しかし、高速にのってまでも、KYの目的地のイメージは定まらない。彼の家が埼玉だということからすれば、宇都宮にきた時点で十分に北に来ているわけなのだが、そんなことは口にしてはいけないのである。
「仙台、行くか」
冗談紛れに言ったこの言葉、高速にのったのが正午を過ぎて三十分ほど経過した頃だったから、遅すぎる決断ではある。仙台まで何時間かかると思ってるんだ。
「よし、仙台行って萩の月[vii]を買うぞ!」
福島県喜多方を挫折した彼は、より遠い場所へ行くことで復讐を果たそうとしているかのようだった。
「三毳の月[viii]でいいじゃん……」
HKの冷静な助言も彼には通じない。
かくして、無意味に長い道のりの中、我々は馬鹿っ話[ix]に興じながら仙台へとぶっ飛ばしたのである。
栃木県をあっさりと脱して福島県を驀進……BGMは筆者秘蔵のアニメソング大全集である。
途中、安達太良サービスエリアで休憩。ここで、高速自動車道と主要幹線道路がピックアップされた地図を手に入れる。これまで、地図も無しに向かおうとしていた無謀さを、笑ってほしい。ただし、福島県が中心の地図なので、宮城県仙台市は北端の方に描いてあるぐらいだった。
「トイレ休憩[x]完了!」
意気揚々と飛び出した我々を、二、三度強い雨が襲ってくる。以前HKが体験した、「前の車の後方ランプのみが頼り」という状況にはならなかったものの、これからの天候を憂えて空を見る。
反対車線が混雑しているのを横目に、すいすいと進む。帰りはこの混雑に巻き込まれそうだなと、この時点で既に帰りは高速にのりたくない気分が溢れている。
何だかんだで宮城県に突入。標識に蔵王[xi]の文字を見かけて、
「ほう、あれが噂に聞いた蔵王……よし、行くか!」
「行って何すんだよ」
あっさりと却下して、いよいよ仙台市へと入る頃には午後四時を回っていた。
[vii] 宮城名菓。全国あまたに散らばる「〜の月」の一つ。KYはこれを会社の連中に振る舞って、せめて短い休暇を満喫したことを証明したいらしい。
[viii] 栃木名菓。みかものつきと読む。全国あまたに散らばる「〜の月」の一つ。HK曰く、名前が違っても中身は同じというのは暗黙の了解らしい。
[ix] 話題の中心は、学生時代の友人であるTTのこと。天然ボケの神に愛されている彼は、様々な伝説を残して現在は埼玉で社会人となっているが、かつての伝説ネタで盛り上がった次第。ここでは本筋とは関係ないので割愛。
[x] 長距離ドライブにおいて、怠ってはいけないこと。
[xi] スキー場くらいしか知らないので、夏に行っても意味がない、と。
3.仙台市の田舎者
仙台の右も左も分からない連中が、仙台宮城インターにて高速を降りて[xii]数分。
標識には、県庁、市役所の文字が。
「よーし、とりあえず県庁見るぞ」
道の流れに任せて、不確かな目的地を目指す。そんなもん見ても面白くも何ともないだろうに……かといって観光名所を回ろうとは決して考えない我々である。
「おー見ろ!ガソリンがレギュラー九十五円!都会だー!」
そんなこんなで仙台駅近くを通りがかる頃には、県庁のことなどどうでもいいことで、はるばる仙台まできてすることもない我々の目的は、土産を買って帰ることだけだった。
とはいえ、あからさまに土産屋なんぞがあるわけでもない、駐車スペースもない、無駄に車を走らせている内に国道四号にのっていることに気付く。
「……帰るか」
いかん。これでは完全な敗北に他ならない。ただでさえ、仙台駅周辺の都会ぶりに打ちのめされているというのに収穫もないままではダメすぎる。
そんな我々の前に「南仙台駅」の標識が。
「土産物扱ってないかな?」
仙台駅に近づけないのならせめて、周辺の駅にそれを期待する我々の考えはあまりにも浅かったと言わざるを得ない。仙台駅は非常に立派な作りで大きい。しかしそれに南という一文字が付くだけでこの零落ぶりはなんだろう。たとえるならば、「宇都宮駅[xiii]」と「南宇都宮駅[xiv]」ほどにスケールが違う。「南仙台駅」の方が売店があるだけスケールが大きいが、土産物は扱ってなかった。
「こうなったら意地[xv]でも土産を買って帰るぞ!」
改めて仙台駅周辺に向けて車を走らせて、屋外有料パーキングに車を停めたのは午後5時を過ぎた頃だった。ただでさえ交通量が多く、歩道側の斜線は路上駐車が妨げとなり迂闊に走ると車線変更もままならない状態である。
「目隠しされて拉致されて、ふとここに放り出されたら東京と勘違いするよな」
物騒なことを平然と言いながら、互いに納得してしまう我々は、人混みになれていない田舎者であろうか。とにもかくにも駅の方へと歩いて数分、駅舎の方に入ってまた数分した頃には、我々の手には牛タン[xvi]及び萩の月がぶら下がっていたのだった。
土産物を手にして、仙台駅周辺をうろつく。実際はどこに車を停めたかが分からなくなってさまよっていただけだが、多少なりとも周辺の地理に明るくなったような気がする。しないでもない。錯覚。
さて、時間を次々と浪費して再び国道4号にのった時には午後6時半。
東北自動車道にのって帰ろうなどとは誰も言い出さないまま、南へ車を走らせているとBOOK・OFF[xvii]を発見。わざわざ右折して道を変えてまで立ち寄って、文庫本を購入。筆者仙台くんだりまで来ての牛タン以外の目標達成に感激しつつレシート[xviii]を受け取る。うむ。
[xiii] 栃木県宇都宮市にあるJR東北本線の駅。豆知識人には駅弁発祥の駅として有名。新幹線も停まる。JR日光線なんて物も出ている。
[xiv] 栃木県宇都宮市にある東武宇都宮線の駅。駅構内に歩行者踏切がある危ない駅。
[xv] ちっぽけなプライド、というよりは勢いに任せたノリに近い。この先何度もこれによって道を狂わされることになる。
[xvi] その普及経緯は知らないが、仙台といえば真っ先に思い浮かべるのはやはり牛タンであろう。宇都宮の餃子と違って、食消費量はもとよりその味も保証された有名ぶりである。
[xvii] 全国展開している古本取り扱いチェーン店。「21世紀のコミック作家の著作権を考える会」にもっとも敵視されているのではなかろうか。旧母体はヌマニウ電器。
[xviii] 物を買った際についてくる領収書。日本の場合、改めてこれを領収書という紙に貼り付けて、名前を書いた上に判子まで押さないと意味を成さない。BOOK・OFFのレシートは筆者の趣味で収集しているもの。実はこの後、名取店にも遭遇。レシートはしっかりGETした。
4.国道六号の悪夢
名取川にかかる名取橋を越えて宮城県名取市に入る。仙台はでかかったが、こちらはそうでもあるまいと鷹をくくっている我々の目に入る「コメリ[xix]」の看板。
そーれ見ろ、やっぱりそうだ。ん、ちょっと待て、何か違う。コメリの後に何か付いている。あれは、あの文字は、POWER?
「コメリPOWER!」(全員)
何ということだ、コメリPOWER。そうか、成る程、コメリではない。コメリであったなら我々もほっと胸を撫で下ろしたであろうに、コメリPOWER。甘く見すぎていた宮城県。仙台市が都会なら、名取市も都会だ。まいった、これにはまいった。
「栃木にはねーよ……、コメリPOWER」
「埼玉にもねーよ……」
そうこういってる内にガソリンが底をついている。最寄りのガソリンスタンドでガソリンを給油。気を取り直して、我々は宮城県岩沼市で国道六号[xx]に乗り換えることに決めた。
「どっかで寿司食おうぜ」
海側を走ってるからって、そのまま海の幸でもないだろーに。大体時間が時間だ(既に午後八時を過ぎている)。寿司屋は比較的早く閉まるのだぞ? 無茶とか無謀とかいうよりも、バカ?
何れにせよ昼食をとってから八時間はゆうに過ぎている我々の胃袋は、何かしらの食物(出来れば美味)を要求しているのは確かだったので、どこか最寄りの店を見つけ次第寄ることにする。
しかし。
「店、ないね」
「灯りもない、ね。先真っ暗なんだけど」
「辺りも真っ暗だぞ」
岩沼市を過ぎ、亘理町に入った頃から雰囲気がおかしくなってきた。数分前までだったら当たり前だったはずの店の灯りはなく、あるのは街灯の道標と対向車のライト、前の車の後方ランプだけ。
このままではいかんと標識に誘われるまま亘理町市街地へ。
「何でこんなに暗いんだ?」
賑わいのかけらもない暗い路地をうろうろと走り回って暫くすると、ふってわいたような夏祭りの混雑にぶち当たった。
「そーか、夏祭りか!みんな出払ってるから店やってねーんだ!」
埒があかないので、国道六号へと舞い戻る。合流地点より北側の道が妙に明るいような気がする。
「真っ直ぐ走ってりゃ、店あったんじゃねえ?」
かといって今更北へなぞ戻れるか、と言わんばかりに南へ向けてひた走る。宿泊するという選択肢も存在しないのである。
気が付けば、福島県新地町に入っていた。
「福島県突入!」
テンションばかりが高い。
我々の視界には、一台のライダー[xxi]の姿があった。千葉ナンバーだ。彼もまた、この国道六号をひた走って千葉へ帰る目論見であろうか。チラチラと他の車に紛れては姿を見せる彼に、すっかり仲間意識を見出している我々は、彼を「千葉くん」と呼ぶことに決めた。
それにしても何もない。時間だけがただ過ぎていく中で、我々の視界をよぎるのは、客が一人でも入っていればましな場末のラーメン屋ばかり。
「ラーメンは昼食ったからな……」
最寄りの店に即入ろうと決めておきながら、選り好みしている辺りが余裕なのか、状況を分かっていないのか難しいところであるが、それだけの理由のために、それから二時間以上、福島県いわき市へ入るまで、ラーメン屋を見かけてはがっかりする状況が続くのである。
ついでにいえば、パチンコ屋が多かった。ここいら辺の人たちの娯楽はパチンコしかないのか? などと失礼なことを話のタネに間をつなぐ。
「はいー、相馬市突入ー」
「はいー、嘉島町突入ー」
「はいー、小高町ー」
こんな調子で、双葉町、大熊町、富岡町、楢葉町、広野町と走っていった。
そして、いわき市に突入したことで、我々の旅は急展開を迎える。
[xix] 農畜産関係の雑貨を取り扱っている、ホームセンターという程にはあか抜けていないチェーン店。結城王氏曰く、「田舎の象徴」。
[xx] 宮城、福島、茨城の太平洋海岸近くを走り、水戸から内陸へ向けて千葉県から都心へとつながる幹線道路。明らかに栃木県へ帰るコースではない。
[xxi] 自動二輪車にまたがる旅人。情熱を傾けている人はバイカーと呼ぶ。
5.いわき市の救済
「あー! 吉野屋[xxii]だ! 吉野屋発見!」
HK、筆者、驚喜。時計に目をやれば、午後十時を過ぎている。レストランなら午前二時までやっているのだろうが、それに遭遇する機会に恵まれない以上はここを逃したら食いっぱぐれるおそれがある。
たかが吉野屋でここまで喜べる自分が情けない。
だが、しかし。
「それは最後の手段だ……」
YKの呟きに、凍り付く車内。
「さんざん肩すかし食らって牛丼だと? ふざけるな!」
失念してしまっていた。ただでさえ残業の多い彼にとって、吉野屋の牛丼は週に何度もお目にかかるメニューの一つに過ぎないのだ。
「大丈夫! ここはいわき、今度こそ市街地に行けばレストランぐらいあるさ!」
そりゃあ、吉野屋は24時間営業、ここで逃したところで、いつでも開いている以上はどうにでもなるが……。
「それに、ここで牛丼食ってから、南に進んでレストランがあった日にゃ、負けだぞ! ああ、あの時もう少しだけがマンしていれば……、なんてことになってみろ! 悔やんでも悔やみきれんぞ!」
それは言えている……かも。のか? そうこういってる内に吉野屋の灯りは遙か後方の点へとなりはてる。残された道は他になかった。
市街地へ抜けるらしいバイパスへと入る。ここで、「千葉くん」とお別れ。
「さらばだ、千葉くん。頑張って千葉へ帰れよ」
意志疎通の全くない相手に妙な感傷を抱きながら、どうやら市街地らしい道へと車は進んだ。そこかしこに店の灯りらしき光が増えていく。こうなったら、何が何でもレストランに入ってやる、と最初の寿司ネタは何処へやらといわんばかりに食欲が湧いている。
そんな我々の視界に、輝く「M’sdinning[xxiii]」の看板。
「おー!あったー!」(全員)
あまりの嬉しさに、手前の何の関係もない駐車場に車を入れてしまう。慌てて移動。
「落ち着け、落ち着け、ここまでくりゃ店は逃げねーぞ?」
横目で営業時間も確認。午前二時までやっている(現時刻午後十一時)。
そういうわけで、実に十一時間ぶりに料理と呼べる食物を摂取。ウエイトレスさんがマニュアル通りに薦めていったステーキを三人とも頼む。
「おすすめというくらいなんだから、材料もそれなりに仕込んでるだろう。俺らみたいな一見さんが消費してやらにゃあ余っちまうぞ?」
などと、義理堅いんだか何だか分からない風を吹かす。空腹にはやはり肉だ。牛肉。アメリカ産牛肉だから安全とメニューに書いてあった。それがどう安全なんだ? などとくだらない会話をする余裕が戻ってきた。やはり人間、物を食わねば生きていけない。機嫌の悪い人はお腹が空いているに違いない、今度見かけたら飯でもおごってやろう。
KYがせっかくだからと、メニュー内にあった「宮 地ビール」を注文する。てっきり福島のどこかの地ビールと思ったのだが、出てきたのは「赤城地ビール」だった。
「赤城? ってことは、群馬県……」
生産地は紛れもなく群馬県[xxiv]だった。
「何で?」
製造者が「宮 地ビール製造」になっている。なるほど、地ビールか。しかしなぜ、福島県はいわき市でこれを飲む羽目に? と言わんばかりにKYはあっさりとそれを飲み干したのだった。
「普通に生中[xxv]にしときゃよかった」
物珍しさに迂闊な行動をとると、惨憺たる結果と後悔しか残らないことを、彼は証明してくれたのだった。
さて、デザ−トも欠かさずに頼んだ今回の食費は、当然ながらKYが全て支払った。筆者は交通費を全額負担しており、HKは一応学生という立場上、支払いを期待してはいけないというのが我々の暗黙の了解となっている。
KYはただでさえ仕事尽くめで金を使うヒマがないらしい。趣味に浪費しようにも、車やバイクは免許を持ってない時点で却下であり、他に使う当てもない。目的も無しに金をためてもむなしいだけだぞ−と、仕事を辞めたがっている[xxvi]KYを労う。
「よし、出発!」
食うだけ食って、あとはもう道に任せて走るだけと出てみれば、あるわあるわ、光り輝くレストランの看板。吉野屋に入らないで本当に良かったと、優越感に浸る。
こうして我々が再び国道六号に戻ったときには、日付が変わってしまっていた。
[xxii] 全国展開している牛丼屋チェーン店。24時間営業。夜食の友。
[xxiii] ステーキ宮系列のオールディーズな雰囲気を狙ったレストラン。今回が初めての利用なのであまり詳しいことは知らない。
[xxiv] 現在位置(福島県いわき市)からゆうに二百キロは離れている県。草津温泉が有名。
[xxv] 生ビールの中ジョッキのこと。生のチューハイではない。
[xxvi] 通常勤務時間八時間に加えて、平均残業八時間(手当無し)、加えて無償休日出勤が当たり前となれば辞めたくもなるでしょう。既に辞めた同僚と再会した日にゃ、「まだ辞めてないの?」と驚かれたらしい。そんな彼は現在同期でも一番の出世頭として、下に日系アルバイトさんや高卒の極めて頭の悪い部下達を従えて頑張っている。合掌。
6.そしてドラマは完結へ
やはり、飯を食ったことで余裕があると違うのか、周囲の景色が真っ暗で、片側には山の稜線がうっすらと、もう片側は本当に何もない、昼だったら水平線でも見えたのではないかという道であっても、気にすることはない。
心なしか潮のかおりがするような……、全くもって気のせいであろうが。
北茨城市に突入して、茨城県に入った頃にはもう行くところまで行くしかないと分かり切っているためか、水戸[xxvii]までの距離が着々と短くなっていることに焦ることはなかった。
「ずーっと、後ろについてきてんの同じトラックだね」
我々が国道六号に戻った際に、丁度後ろになったトラックのことである。いわゆる長距離運送の類であろう。HKがチラッと見たナンバーは習志野であった。
「まあ、この調子だと、水戸までは同じ道のりになんじゃねーの?」
「おお、同志よ!」
また訳の分からない親近感によって、そのトラックは「習志野さん」と呼ぶことになった。やはり、旅の道連れは多い方が楽しい。
常磐線沿いをひたすら走っているので「〜駅」「〜駅」という表示が次々と視界に入っては消えていく。途中下車の旅をするにはあまりにも周辺に何もないと思うのだが、それは真夜中にこんな処を走っている我々の視点に問題があるのだろう。
そうこうしている内に茨城県日立市に突入。KYは日立という名前にいやな思い出がある[xxviii]ので、出来るだけそれに触れないように話題を先にある東海村へと向ける。
原発。無知蒙昧な我々でも、その二文字が真っ先に浮かんだ。
「生憎とガイガーカウンター[xxix]は搭載してないんだよなあ」
「では、体で実感!」
茨城県東海村へ入る。標識に原研の文字があるだけで騒ぐ。
「おー! 原研! さすが原子力!」
原子力研究所だから原研、光子力研究所なら光研、とすると、ゲッター線研究所はゲッ研? などとふざけた話題で盛り上がっている内に通り過ぎて、いつのまにか茨城県はひたちなか市に。
もう水戸市は目と鼻の先と言うところまでやってきた。時刻は午前一時を過ぎた辺り。
いよいよ正念場というところにかかって、HKが前の方を走る一人のライダーを見つける。
「おい、あれ千葉くんだよ!」
学生時代から抜群の記憶力を誇る彼は、間違いないと彼を指差した。暗がりの中のうろ覚えでは不確かだったが、確かに千葉ナンバーだった。
我々がいわき市で飯を食ってる内に、とっとと行ってしまったものと思っていたが、彼もどこかしらで休憩をとっていたのだろう。運命的な再会に喜ぶ我々を後目に、千葉くんは淡々と走り続けているのだった。
そんなこんなで水戸市に突入。標識にも国道五十号の文字が見えて、いやがおうにも盛り上がる我々。
「おお、オールキャスト!」
「まるで最終回[xxx]みたいだ!」
今まで一体どんなドラマがあったというんだ。おそらく、「千葉くん」も「習志野さん」もあずかり知らぬところで、勝手に盛り上がっている我々は勝手に彼らを出演者扱いにしている。
そして、国道六号と国道五十号の交差……。
我々は国道五十号を西へ。「千葉くん」と「習志野さん」はそのまま国道六号を南へと、それぞれの道へ別れていったのであった。
(完)
[xxvii] 茨城県県庁所在地にしてやはり大都市。国道六号はここで国道五十号と交差するので、乗り換えて栃木に向かおうというわけである。何とも遠回りな……。
[xxx] 最終回には、今まで登場したキャラが総出演する大団円が望ましい。
●エピローグ
実の所、国道五十号にのるまでにテンションを上げすぎたために、のってしまってからはもうただひたすらに家路に走るばかりの、盛り上がりのない走行となってしまった。
午前二時過ぎには、栃木県小山市へと到着。HKを自宅前に降ろして、新四号にのる。
KYを埼玉県は庄和町に送らなければならないからだ。
気力も体力も使い果たした我々の話題は、今回の旅の反省会のようなものだった。
「……やっぱり、仙台で一泊すべきだったんだよ」
「そだな、宿決めてから、そこ拠点にしてうろちょろすればもっとゆっくり出来たもんなあ」
「今度はゆっくりしてぇな」
「ああ。俺は車出すのはもうごめんだ」
「今度まとめて休めんのは年末年始か。……どうする?」
「電車で熱海」
「熱海ならパックで旅行組めるしな」
「熱海でゆっくり温泉につかってさ、休もうぜ」
「どうせ、三が日くらいしか休めねーしな」
「そ。旅行で疲れて帰ってすぐに仕事じゃ、体保たないし」
「じゃ、今度はゆっくり、熱海にでも行きましょう!」
そんな話をして、埼玉県庄和町に着いたのが午前三時過ぎ。KYを自宅近くのコンビニに降ろして、今度こそ自分の家路についた。
眠気との戦いをしつつ、栃木県宇都宮市に帰り着いたのが午前四時半を過ぎた頃。東の空がうっすらと白んでいた。ああ、俺の旅も終わった……。
累計走行距離八百キロ。一抹の終わり。目出度し、目出度し。
(2003/03/02)
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